今年(2011年)は動物愛護法の改正年、8月にはネット上でも動愛法改正のパブリックコメントを募集していましたから改正案をダウンロードして一読された方も多いのではないでしょうか。今回の改正の議論の中で何度も出てきた「トレーサビリティ」という言葉について考えてみましょう。
もともとトレーサビリティとはtrace(追跡)とability(可能性)を合わせた言葉で「追跡可能性」のこと。物品の生産から流通、販売から廃棄にいたるまでの過程の追跡可能性、その軌跡を意味します。
これが動物愛護にどう関わってくるのかを考えてみましょう。
子犬が生まれてから一般愛犬家の元に届けられるまでには、色々な「過程」があります。一番シンプルなのはブリーダーから直に一般愛犬家に渡される場合で、この場合は愛犬家から見るとブリーダーさんを直接知っているわけですから(ブリーダーさんが嘘をついていない限りは)トレースは完全に出来ています。
ただしこのような一本線の流通はまだまだ稀で、通常はその間に繁殖家との間に入るブローカー、販売業者などが入り、何度か「受け渡し」が行われることが多いのです。これが後々なにか問題が起きたとき、面倒の元になります。
これはペット業界では当たり前のことなのですが、色々なブローカーを経てきた場合には当然その1人1人が「手数料」をしっかり乗せていますから、子犬はその度に値段が上がっていきます。そうやって流れることによって犬にとってイイことは1つもありませんし正直言ってお客様からの印象もよくはないので、大体のショップはお客様にそんな事はお伝えしません。この時点で愛犬家には「知らされない」部分が生まれる訳です。
つまり「ブリーダーから貰ってきたばかりの」という一言の中に「ブリーダーから○○さんに渡って××さんに売られてそれを自分が貰ってきたばかりの」という言葉が隠されている事はヨクあるということです。
「子犬の血統書がいつになっても来ない」というのはペットショップにおけるクレームの代表格ですが、実はフタを開けてみたら、この「流通過程」において××さんが○○さんに未払金があって○○さんが怒って××さんに血統書を渡さなくて、、なんていう陳腐な事件もよく起きています。(もちろん表には出てきませんが)
さてこんな状況ですから、自分の愛犬が自分の元に届くまでに誰の所をどういう風に流れてきたのか「知っている」つもりの愛犬家は多いですが「正確な事を本当に知っている」愛犬家は意外に少ないのです。ヒドイ場合には最終的に子犬を販売した業者でさえ、元々の流れを知らなかったりします。「そうは言うものの元の繁殖者だけは血統書を見れば歴然と分かるじゃないか」と思われる方も多いでしょう。実はそうでもありません。本当に悪質な業者は平気で違う血統書を渡したりもするからです。
まあ、日本には嘘も方便なんて言葉もあって、それでも無事に愛犬が健康に育ってくれれば何て事なく終わるのですが、これで子犬が遺伝病や伝染病などで死んでしまったりした時にはさあ大変。何が原因で誰が悪かったのかすら特定ができません。どこで病気にかかったのかも、どの親が元々遺伝病を持っていたのかも、結局分からずにウヤムヤに終わる事がしばしば起こるわけです。つまり最悪の場合は遺伝病の親を使って繁殖しているブリーダーにその情報がフィードバックされない事もあるわけです。これでは健全な繁殖も動物愛護もあったものではありません。
長年の体質を一朝一夕にクリーンにすることは難しいでしょう。ですが今回のこの改正案でこうして「トレーサビリティ」について言及され始めたことは、日本の生体流通をクリアにしていくための実に大きな一歩であると言えます。
さて、貴方の愛犬、どこから来ましたか?トレーサビリティは完全ですか?