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特別コラム

古賀コラム(12)愛すべきものを管轄するもの

今年は動愛法の改正年、いろいろニュースで話題が飛び交っていますね。
動愛法の正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」で、ポイントは「愛護」という言葉が含まれていることです。この法律はまだ若く、施行から10年しかたっていません。10年以上前は「動物の保護及び管理に関する法律」という名で一般的には「動管法」と呼ばれていました。つまり10年前に動物は管理されるものから愛護されるものに昇進したわけです。実際、現在の動愛法ではまず動物のことを「愛すべきもの」と定めています。
なぜ10年前にいきなり動物達は昇進したのか?突然人間社会が愛護に目覚めた!という訳ではありません。このころ大きな事件がありそれがきっかけとなったのです。

最近の若い方はもう知らないかもしれませんが、1997年に起きた「神戸連続児童殺傷事件」は衝撃的な事件でした。犯行声明に使われた「酒鬼薔薇聖斗」という名前は有名です。このサカキバラ事件では複数の小学生が殺傷されたのですが、犯人がいわゆる「普通の」中学生だったということが何よりショッキングでした。
実は意外に知られていませんが、この犯人の少年は動物への虐待行為をたびたび行っており、それを近所の住民は皆知っていたと言われています。そのころの動管法ではまだ動物虐待についての明確な罰則はなく、つまり動物虐待は明らかであるのに誰も少年に注意を与えていなかったのです。
事件の収束後、これは1つの焦点となりました。まず動物虐待をしていた時に少年に対して何らかの罰則を与えることができていたら、エスカレートして人間に手を下すことはなかったのではないかと。
つまりこれが、動物を「管理」する法律が動物を「愛護」する法律に変わる大きなきっかけだったのです。

10年前に急展開で施行された「動愛法」は、まだまだ議論不十分な所もあり改訂の余地があるということで、5年ごとに改正されることが決まっています。今年は2回目の改正時期にあたります。
今回の動愛法でまた色々なことが改正されます、幼齢販売の禁止規制や深夜販売の禁止、通販業者の対面説明の義務など、様々な報道がされていますね。興味のある方は是非これからの動きを注意深く見ていて頂きたいと思います。8月には改正案のパブリックコメントが出されますから、まだ何か意見があれば「一応」発言する余地は残っています。先日、改正に関わる会議に出席されている先生とお話ししていたら、こう言って笑ってらっしゃいました。「皆が皆、自分の立場から好きな事を言いたいだけ言って帰って行く、まとまるモノもまとまらない会議だよ」。。。

法律はあくまでも法律、社会の枠組みの中の1つの方言であるというコトも忘れてはいけません。そもそも「動物」に関して人間は大きな矛盾を抱えているわけです。「動愛法」を管理しているのは「環境省」ですが、その他の動物に関する法律をすべて担うのは実は「農林水産省」です。つまり当たり前の話ですが、動愛法に「畜産動物」は含まれていないのです。かたや「愛すべきもの」で、かたや「国民の重要なタンパク源」、この差はどこから生まれるのか。管轄省庁を変えるだけで議論の余地も残さない法律とは、実に便利なもの。

さて、貴方はどこの省庁に管轄されたいですか?
愛されたい?管理されたい?タンパク源と見なされたい?