PACBIZ
 
特別コラム

古賀コラム(10)元々の尻尾の長さを知っていますか?

先日プードルのトリミングコンテストの審査にいった際、モデル犬の中に、一匹だけ尻尾の長いプードルがいました。プードルのカットでは通常短い尻尾の先にポンポンという毛の玉を作るのが課題なのですが、長〜いネズミのような尻尾の先にポンポンを作ったので不思議なライオンテールが出来上がっていました。
実に興味深かったのが、アシスタントをしていたあるスタッフ。そのプードルを一種の奇形だと思った様なのです。「ああいう尻尾のプードルが産まれて来ちゃう事があるんですね」なんて悲しそうな顔で言うものですから、びっくりしてしまいました。
プードルっていうのは元々はああいう長い尻尾で産まれて来て、それを断尾するんだよと教えてあげたら余計にショックを受けていましたが、それを知らない事の方がこちらはショックだったりして。

ご存知の様に、犬には尻尾を短くする「断尾(ダンビ)」と耳を形を整えて切る「断耳(ダンジ)」があります。断尾や断耳をするかしないかは基本的に犬種によって決められています。プードルは断尾をする犬種。グレートデンは断耳をする犬種。ドーベルマンは断尾も断耳もする犬種、というような具合です。
もともとなぜ断尾や断耳をするようになったかと言えば、狩りで森の中を走り回る時に当たって怪我をしないため、とか、風通しをよくし聞こえをよくするため、とか本気なんだか冗談なんだか分からない理由がありますが、今となっては要は人間のエゴ、好み、ファッション感覚のためであると言い換えてしまって良いでしょう。もともと持って産まれて来たものを切り取る必要が本当にあるのかという質問に、100%の答えができる人間は居ないはずです。

耳と尻尾を「切る」にあたって一番の違いがその施術をする時期です。尻尾を切るのは生後4〜5日、耳を切るのは生後2〜3ヶ月くらい。ここでは言いませんが手術自体も結構残酷です。時期の差もあってか、断尾については意外に知らずに飼育されている方も多い様に感じます。つまり手元に来た際に尾は切られていて毛も生え揃っているから言われないと気付かず、元々こういうものなんだと思っていると言うこと。
これに対して耳を切るのは通常飼育を始めてからですから、もちろん飼育者の自由意志で切るわけです。断尾の習慣はなくならないのに断耳の習慣が減って来ているのはこの辺りに理由があるかもしれませんね。実際、ヨーロッパなどでは動物愛護の観点から断耳を禁止する国も増えて来ていて、例えばイギリスのドッグショーに出て来るドーベルマンは全て耳が垂れています。イカニモな格好良いドーベルマンの写真を撮ろうと思ったら、アメリカのドッグショーに行く方が良いでしょう。

英国のあるペット関係者に、断耳はしないけど断尾はする理由をきいたところ「耳を切る手術はひどいものだ、あれは虐待だ」「だけど尾は産まれてすぐに切るから犬は痛くないんだから大丈夫」とのお返事。「痛くないって、アナタは尻尾切られた事があるんですか?」とツッコンでみたくなるのは私だけではないはずです。ああ不思議な動物愛護大国。

先日も、グレートデンをお譲りしたお客様から断耳が無事に終わって格好よくなった、とお便りを頂きました。数ある犬種の中からグレートデンを飼う方は、あの精悍な顔を希望している方がほとんどですから、こちらとしてはステキになりましたね!と御返事するしかありません。それでもお渡しした頃のペロ〜ンと耳の垂れた子犬の写真を見て、これで充分可愛いのになあ、、と思ってしまう今日この頃。

さあ、貴方がドーベルマンだったら、尾は切って欲しいですか?
耳を切って格好よくなりたいですか?