実際に子犬の繁殖を始めることになりました。
日常の管理で注意すべき点を教えて下さい。
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子犬の繁殖は古くから行われている事業ではありますが「正しいやり方」があるわけではありません。
個々の経験から、個々の「正しいやり方」が蓄積されて行きます。
繁殖を始めた人が失敗しがちな点についていくつかのヒントを述べる事にします。
必ずしも「正しいやり方」でないかも知れませんが・・。
給餌
成犬は1日1回、きまった時刻にきまった量のフードを与えます。
健康状態の把握は、主として食欲や食事時の犬の行動で判断します。
あらゆる病気は食欲不振から始まります。
1頭1頭、別の器で給餌すること、他の犬におびやかされるような状態での給餌はいけません。
他の犬が残したフードを他の犬に与える事は危険です。
フードを残す事がすでに異常だからです。
餌を常時食べられるようにする(置き餌)では健康管理が困難ですし、常時排泄があって衛生上もお勧めできません。
給餌時は多数の犬が同時に吠える事となり、近隣に人家がある場合には、この時が最も問題になります。
何時に餌を与えるかは、慎重に考えねばなりません。
又、犬舎に立ち入ってから、実際に犬がフードを食べるまでの所要時間をできるだけ短くする工夫も必要です。
フードをふやかしたり、混合したりする場合は、別の場所で作って犬舎に運んだ方が静かです。
掃除
犬の糞は健康状態の判断に貴重な「資料」となります。
犬舎の掃除はもう一つ「シーズン」の到来を知る重要な目的をもっています。
床面の血液の痕跡を見落としてはなりません。
シーズン初日の把握は交配日を決定する一応の基準となるため、繁殖犬管理で最も重要な仕事です。
犬舎の掃除を繁殖の知識をもたない人に任せてしまう事は避けなければなりません。
交配適期
交配適期を知るために、シーズン初日から指折り数える事が昔から行われていますが、これには見落としや、個体差があって、正確ではありません。
色々な判定方法が考えられていますが、正確を期そうとすると手間がかかり、大量の台犬をもつ繁殖場では実際的ではありません。
牝犬のシーズン到来や交配適期を正確に見分ける事ができるのは牡犬です。
よく訓練された牡犬(小さい犬)を掃除の度に犬舎に連れて行くだけで、牝犬シーズン到来を正確に教えてくれます。
その後、この牝犬の観察を続け、交配適期の誤差も考慮して複数回交配をするのが一般的です。
牡犬を所有する場合であっても、常時、牝犬と同じ犬舎に入れておくのは好ましくありません。
適期と思われる日に限って、牡牝を同居させます。
牝を牡の犬舎に移すのが原則です。
交配がうまく行かないと出産はありえませんから、気の抜けない作業です。
犬体の手入れ
長毛犬種の場合、繁殖犬舎で長毛を清潔に保つのは困難と思われます。
よほど人手がない限りシャンプーを頻繁に行う事は出来ないでしょうし、不潔になり、蚤などが寄生すると根絶は困難です。
被毛を短く刈るなどの対策が必要です。
繁殖犬として生涯在舎する犬の場合には断尾や断耳をしないことがあります。
この様な事情もあって繁殖場に他人を入れる事はタブーとされるのです。
近隣に「トリマー養成校」があると事情が一変します。
スクールはカット用のモデル犬を必要としており、定期的に貸し出す事により、被毛を清潔に維持する事が可能になります。
時々、生徒のミスで耳先から出血して帰って来る事はありますが・・。
消毒
繁殖施設は頻繁に消毒薬を使います。
季節や、感染症の流行事情によって、消毒の方法や薬剤は変わります。(別途勉強して下さい)
施設の排水が下水道につながっている場合は問題ないのですが、浄化槽の場合や、河川などへの放流の場合に問題が生じます。
浄化槽の浄化のしくみと薬剤の関係については別途調べて下さい。
河川や池への放流では、魚(生物)が浮いたりとか、その水が農業用水であったりとかする場合に思わぬ事件を起こす事があり得ます。
消毒薬は生物にとっては毒ですから、扱いには特に注意して下さい。
消毒薬の希釈に際し「濃いほど効く」と考えるのはまちがいです。
フードの保管
繁殖施設のどこかにフードを保管しなければなりませんが、ネズミの害には注意して下さい。
ネズミはフードを食べるだけでなく、蚤などの外部寄生虫を運んで来たり、最悪の伝染症を持ち込んだりします。
ネズミの尿で汚染されたフードを犬に与えるようなことは絶対にあってはなりません。
ここまで考え進んで来ると子犬の繁殖と言う仕事は、少なくとも「人まかせ」では成り立たない事がおわかりでしょう。
犬の繁殖はブームだから自分もやる、と言うようなものではなく、技術と知識を積んで参入する高等なビジネスである事に気付いて欲しいと思います。
犬はフードと水を与えれば子犬を生む機械ではありません。
子犬の繁殖事業に欠く事ができないものが犬に対する「愛情」です。
きざなようですが、犬の繁殖事業で成功している人ならばすべて知っている事です。