すぐにではありませんが、会社を退職して故郷に戻り、子犬の繁殖で生計を立てたいと考えています。
具体的に何から準備を始めれば良いでしょうか?
繁殖場を作る際の注意なども聞かせてください。
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現段階では相談者が子犬繁殖事業に充分な技術と知識を持っているとは考えられませんから、まず可能な手順で「子犬の繁殖」についての知識や流通についての情報を収集すべきだと思います。
さらに事業として繁殖を始める前に、実際に自分で犬を育て、出産に立ち会って見ることは必須です。
都市部のペットショップを見て回り、人気犬種や価格動向も知るべきです。
犬の卸売り市場に定期的に通うことで季節による価格の変動や、業者としての犬の良し悪しの判断基準を学ぶことが出来ます。
子犬の繁殖事業への新規参入にあたり、注意すべき点をいくつか述べます。
業者登録と資格要件。
動物愛護の観点からペット関連の事業を規制しようとする動きがあります。
犬の繁殖事業を行う場合にも「業者登録」が必要になりました。
「業者登録」の要件はまじめに繁殖事業を開始しようと考える人には妥当なものですから参入の障害になるものではありません。
また動物取扱事業所ごとに「動物取扱責任者」を1名置くことが義務付けられています。
「動物取扱責任者」は都道府県が開催する研修を年1回受講することになります。
「業者登録」「動物取扱責任者」についての詳細は事前に都道府県から書類を取り寄せて準備をして下さい。
外部から見えない犬舎を作る。
外部から見える犬舎は、犬から外が見える訳ですから、騒音がより大きくなります。
あまり考えたくありませんが、近隣との関係の悪化を予防する意味でも内部が見えない構造が望ましいと思います。
繁殖の現場ではあたりまえの事が愛犬家の目には「虐待」に映るような事柄もあります。
外部から犬が入る時は要注意。
繁殖場にとっての致命的な損害は伝染病や皮膚病、寄生虫などが侵入することです。
これらは外部から犬が繁殖場に入る時に持ち込まれます。
安定の域に達した繁殖場では、子犬が出て行くばかりですから事故は少ないのですが、開業初期の台犬導入時はきわめて危険な状態にあります。
繁殖場には隔離室を必ず作ります。
病気の犬を見分ける事は誰にとっても困難ですが、繁殖場を伝染病から守る方法が一つだけあります。
それは入って来る「すべての犬が病気」と決めつけることです。
繁殖場に入る犬はすべて一定期間隔離(病気扱い)します。
その時期に疑われる伝染病の潜伏期間を過ぎて健康なものだけを繁殖犬舎に移します。
伝染病は人によっても運ばれます。
繁殖場は他人(特に動物関係者)を敷地内に入れるべきではありません。
逆に繁殖者は他の繁殖場を訪ねた場合でも敷地内に入るべきではありません。
やむを得ず入る場合でも、靴底の消毒や手の洗浄など防疫対策は必須です。
太陽は最強の消毒薬。
太陽の消毒、殺菌力は強いものです。
犬舎設計の段階から日光消毒に適した構造(例えば屋根が開く)を考えます。
繁殖場に於ける運動場と言うのは、運動のためだけではなく日光浴のできる場所と考えるべきです。
金網越しの交雑もあり得る。
繁殖場のまわりには必然的に野犬が集まります。
その時期には塀を乗り越えたり、穴を掘ったりして牡犬が侵入します。
金網越しの交雑もあり得ます。
このあたりは人間の常識をはるかに越えています。
開業資金。
あらゆるビジネスで言える事ですが、入るお金は予定より少なく、出るお金は予定より多いものです。
犬舎設備やフードの他、予防接種や地域によっては暖房費など見えない費用もかかります。
子犬の繁殖は人の計画通りには運ばず、繁殖開始初期の無収入期間をどう乗り切るかは新規参入者の課題です。
ちなみに最も収益率の良い時期は繁殖開始後2年目から4、5年目ですが、この後は次期台犬の導入や年寄り犬の飼育にも手間と費用がかかり続けます。
現金に替えたい気持ちは分かりますが、出産子犬の内、台犬向きの牝犬を残して行く事もおすすめします。
その他。
よほど恵まれた環境でない限り、繁殖は近隣に音や臭気などで迷惑をかける事業です。
「愛犬家」としてなら許されるレベルであっても、「商売」となると近隣の見方は大きく変わります。
環境や近隣住人への配慮を欠くと種々のトラブルを招くことになります。