当方は養豚場を経営しておりますが、人の勧めもあり、一部の豚舎を犬の繁殖に切りかえ、現在中型犬40頭の台牝で試験的に3種類の犬を繁殖しています。
繁殖を開始して約10ヵ月が経ち、犬の年令では1才になるのですが、B犬の数頭にはシーズンが来ましたが、SとKについてはシーズンの徴候がありません。
犬種による差と考えて良いのでしょうか?
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繁殖台牝のシーズン到来の早い遅いは犬種による差や、個体差によると考えるのが人間的にはつじつまが合うのですが、以下の点に着目して再検討される事をお勧めします。
1、養豚、養鶏など多頭飼育が常識となっている動物と犬を同列に考えてはなりません。
今回の例では唯一B犬だけが狩猟犬で、本来この犬種は集団で獲物を追いつめる猟法のため、多頭飼育される事が普通でした。
多頭飼育ができるという事は「神経質ではない」と考えて良いと思います。
こう言った犬種の特徴として、耳が垂れている、吻が短いなどがあります。
さて、立ち耳のSやKは、本来牧羊犬で、特別な事情がない限り、多数飼育される犬種ではなく、その飼育環境からも養豚的な飼育(主として密度の問題)には耐えられない犬種です。
つまり、繊細な神経をもつ犬は外的なストレスに弱いと考えるべきでしょう。
餌は良く食べるが太らない、神経質に吠える、などの徴候が見られることが多いようです。
2、動物が子孫を残そうとするのは、子供が無事に育つ環境がそこに在る場合であって、犬にとってシーズンが来るのは「身」にもまして「心」によるものが大きいと思います。
犬はかなりの高等動物で、少なくとも餌と水だけで育つ動物ではありません。
今回の例ではS犬は大部屋から出して、少しでも他犬の動向によるストレスを軽くする事で体重が増え、シーズンが来ると考えられます。
この種の犬は出産後も、他の犬から直視できるような環境では泌乳量にも影響があり、順調な子犬の成育が望めません。
経済動物の多頭飼育経験者が、犬の繁殖を手掛けた場合にこの例のような事が良くおこり得ます。
一般に人間が管理しやすい犬舎と言うのは、犬にとっては住みやすい犬舎ではないのです。
犬種のシーズン到来には栄養の問題も多いに影響します。
10頭の飼育で50頭の子犬が得られた実績があっても、100頭の飼育で500頭の出産はないのが犬の繁殖事業である事を認識して下さい。
3、別の相談事例で、毎月収入が欲しいから生年月日の違う台犬を順次入れている。と言う方が居ました。
人間の経済事情としてよく判る話ですが、犬のシーズンの到来は、当初は生年月による差がありますが、複数飼育される犬のシーズンは近づき、やがて一致するようになります。
同種の犬を多頭飼育する場合に、この問題は出荷子犬の値段に影響があり深刻でもあります。
つまり、同犬種の大量出荷は、自分で値段を下げ自分の首をしめる事にもなるのです。
薬品によってシーズンを調整する方法もありますが、飼育頭数に応じた販路の開拓の方が賢明でしょう。
4、初心者の繁殖犬種選びでは次の様な事も目安になります。
・耳が垂れ、吻が短い犬種を選ぶ。(多頭飼育しやすい)
・多産犬種を選ぶ。(親犬と子犬の体重差が大きいために安産)
・断尾の必要がない犬種を選ぶ。(経費が余分にかからない)
・模様がない犬種を選ぶ。(柄の出方による価格差がない)
・毛色が濃い犬種を選ぶ。(アイラインや鼻鏡などの色素の心配が少ない)
5、繁殖犬種の人気の推移
ビジネスとしての犬の繁殖を考えた場合、その犬種の人気度は出荷価格に大きく影響します。
出荷のピークが人気のピークに一致するとラッキーですが、山がずれると、もくろみが大きくはずれます。
無難に行こうと思うならば出荷値段の安定した定番犬種を選ぶべきです。
人気度の計り方としては次の様な事が目安になります。
・街でたくさん見かけるようになると下り坂。
・ペットショップで牝の方がかなり高い、又は牝がいない時期は上昇中。
(繁殖家が牝を残すため出回らない)
・大型犬の人気は早く落ちる。
(多産だから飽和状態が早く来る)
(大型犬は素人繁殖が多く、個人間の譲渡が多くなるため値崩れが早い)
・映画やTVドラマで人気が出た犬を、その時点から繁殖を始めるのでは一般に手遅れです。
(大河ドラマだといいのですが)